先日のこと。
馴染みのお客さまが、「ヒュッテみさやまのイメージそのものの物語があるんです」と、
一冊の本を持参して下さいました。
「ひとりでやまへいったケン」というタイトルの絵本。
福音館書店のこどものともシリーズのひとつで
作者・画は山のパンセで有名な串田孫一さんです。
とある少年が一人で山小屋に篭る物語なのですが
登場する風景や動植物、山小屋のストーブの形など
ヒュッテの佇まいに重なるところが多々あってうれしくなりました。
またその中で過ごす時間の流れ方や心の動きなども、多くの人が感じる山時間そのものです。
串田孫一さんは霧ヶ峰をはじめ沢山の山々に深く親しんだ方ですから、
その山を味わう感性そのままに、自然体でこの絵本を書かれたのだと思います。
この本を持参して下さったお客様は、子供の時に読んでからずっとそのイメージが心に残っていて
ヒュッテのホームページを見た時に「イメージどおりの場所があった」と予約を入れてくださったそう。
とても素敵な絵本のご紹介とともに、そんな嬉しいお言葉をいただいて感無量でした。
本当にありがとうございます。
ところで、この話をきっかけに串田孫一さんの「山のパンセ」を再読していたら、
偶然霧ヶ峰でのこんなエピソードを見つけました。
1956年10月に霧ヶ峰を訪れた串田孫一さん。
新しく出来たコロボックルヒュッテの完成を祝い、霧と雨の夜をヒュッテで過ごした翌日のこと。
中々いい天気にはならず、雨の晴れ間から山の風景を眺めながら、こんな想いを綴っています。
「雨の多い秋なのだ。前日の登りのバスの中で偶然会った高橋達郎さんは、九月には晴れた日が四日しかなかったといっていたし、落葉松が金色に光る秋は、この高原にはなかった。勿論私にとっては雨の草原もそれなりに嬉しくはあったけれど、落葉松の林はじめじめとして、その色も腐って行くものの感じだった。」
この文章を見つけたとき、
あれー。今年の秋と一緒だ!
9月は本当に秋晴れという物をほとんど味わえなかったし、
おかげで10月も中旬まで紅葉はなかなか進みませんでした。
うーん。
奇しくも串田孫一さんが、雨の霧ヶ峰で一夜を過ごしてから今年はちょうど60年。
自然は時に似たような体験を人々に残しながら、春夏秋冬と季節が巡り、時が流れて行くのですね。
移りゆく人の世と、変わらない大自然の営み、そして今ここにある自分。
不思議なつながりに空想を働かせながら、なんだか感慨深い思いにかられました。
そんな秋も今年はもう終わり。
長い冬に備えて小屋じめの準備に忙しい、今日この頃です・・・。